20/04/26 12:00 投稿
より美しい仕上がりを求める工務店「水雅」。住むほどに愛着のわく、家づくりへの思い
リノベのトレンド
デザイナー:白石 淳さん(左) 代表取締役:田代 浩二さん(中央) 専務:戸石 謙治さん(右)
「家づくりや造作の過程で、いかに美しく仕上げるかにひたすらこだわってしまい、ふと我にかえることもよくあります...笑」
と話すのは水雅の代表・田代 浩二さん(写真中央)。現場の施工を手掛ける専務・戸石さん(右)とデザイナー・白石さん(左)にご同席いただき、美しい家づくりへの考え方や取り組みについてうかがいました。とても寡黙な印象の彼らに、物づくりに対するまっすぐな愛情と追求心の強さを感じました。
水雅は、東京・杉並に工房と事務所を構える工務店。大工職人の手で丹精を込めてつくられた住まいは、仕上がりの美しさやもちろん、そこで暮らし続けるほどにうっとりするような繊細な表情が魅力です。
「大工×技術」人の心に寄り添った家をつくる
つねに楽しみながら、より美しい仕上がりを追求するなかで培った技術
「物を入れて終わりではなく、年数を経てどう変化するかがとても気になりますね。また住まい手がどんな暮らしを重ね、どんなメンテナンスをしたかによっても経過は異なる。『その結果どうなるか』を常に見てきました。
例えば、通常では塗装で仕上げる複雑な溝や切り込みのある壁も、クロス張りで美しく仕上げることができます。その技術は表には見えない下地づくりにあって、いろいろな経験を重ねた結果です」
愛情を込めた家づくりだからこそ、完成がゴールではないと考える水雅。そのこだわりは下地づくりにも表れています。見えない箇所のそのひと手間が、ほかには真似のできない美しい仕上がりに通じているのです。
「設計士やリノベーション会社の施工を多く手がけてきて、特にリノベーションでは、難しい納まりの技術を求められてきました。図面上では表せない、納まりの見た目をいかに美しく仕上げるか?に常にこだわっています」
設計どおりの仕様や仕上げの早さが求められる建売住宅では、ここまで追求することは難しいかも知れません。設計者や住まい手が何を求め、どこまでこだわりたいか、何度もヒアリングを重ねながら、納得してもらえるレベル以上の仕上がりを提供する追求心。それを模索し続けてきたからこそ、わたしたちはその美しいしつらえに魅了されるのでしょう。
予算内でいかに美しく仕上げるか?
「家づくりや造作家具を美しく仕上げるためには、それだけ手間がかかるということです。素材や時間とお金をかければいくらでもできてしまう。そこを、いかに予算内に収めるための素材を選び、より美しい仕上げにできるかという課題を常に考えています。つまりいかに安っぽく見えないかってことですね」
大半の家づくりでは、予算との兼ね合いは不可欠。コストバランスを取り入れながらも、いかに上質さを損わないかという目線は住まい手にとってはとてもうれしいことです。そんな提案ができるのは、素材や特性をよく理解し、扱い方を熟知している水雅の強みと言えます。 下地づくりの経験を踏まえ、美しいクロス張りの技術ひとつとっても、こうした力があるからこそ多様な選択肢を取れるのです。
こちらは、床や造作にはふんだんに木を取り入れながら、壁面全面の扉はコストを抑えた素材を使用した事例。ポリランバーといわれるポリエステルの化粧板は、DIYなどでも使われるリーズナブルで加工のしやすい素材です。白い壁に合わせ、広がりのある空間を保ちつつ、職人の手の込んだ技術力によって、美しく調和の取れた空間に仕上がっています。
無駄な線をなくし、フラットで繊細仕上がりに
「お客さまからの依頼でも、『生活感を出さないように扉を付けて隠したい』といった収納に関するご希望が多くあります。建具や窓の枠を除くことで余計な線をなくしたり、繊細なラインをつくることで、全体がフラットな仕上がりになります」
「家具や枠に関しては、ラインの細いものが今のトレンドの傾向にあります。メーカーでもそういった家具のシリーズが出るほど、細い見付けの枠を多く見かけるようになりましたね。空間にあわせた造作で実現することは、とても難しいのですが、見た目と強度の絶妙なバランスを見極めながら造り上げています」
枠なし
最も難しいと言われるのが、建具や窓、扉に枠をつけない「枠なし」という手法。開口をあけて外枠と建具をはめ込む一般的な方法に対し、この「枠なし」はとても高度な技術が必要になるのだそう。建具や扉と壁の全てのバランスが考えられています。
その何気ない枠ひとつとっても、あるのとないのとでは大きく印象が異なります。 壁と馴染ませ、一体的に見えることによって、無駄のないシンプルな仕上がりとなります。
見付け・見込み
枠や縁を取り付ける場合でも、きめ細かい心づかいで、バランスの考えられた美しい仕上がりに。 枠の正面の幅を「見付け」と言い、奥行きを「見込み」と呼びますが、「見込み」の面を斜めに取ることで、見付け(枠幅)が細く見え、繊細な表情が生まれます。 薄い木材を用いれば、見付けを細くできますが強度は失われてしまいます。十分な耐久性のある木材を使いつつも、こうした技巧を駆使することで、重たすぎない華奢な印象を与えることができるのです。
留め
床や棚枠の角を、斜め45度にカットしてはめ込む「留め」と呼ばれる仕上げ。無骨になりがちな角も、洗練されたシャープな仕上がりになります。
クリアランス
造作収納の扉のまわりには、開閉のためにある程度の隙間が必要になります。それを「クリアランス」といい、そのラインを一定に揃えることによって、全体的な統一感につながっています。 同じサイズの収納を単調に並べるだけでなく、目線や手の届くところにニッチ棚を配置。その空間で過ごし、その場所に立つ住まい手の暮らしをシミュレーションしながら、「ただのシンプル」におさまらないアクセントとしています。
リノベりす編集部 ながや