22/01/26 10:00 投稿
あるある!マンショントラブルのケーススタディ(名誉毀損編)
リノベーション・ゼミナール
大勢の人がひとつの建物に暮らすマンションでは、些細なことから大事件まで日々問題が起こりがち。そこで、多くのマンショントラブルを解決してきた桑田弁護士に、対処方法と過去の事例について話を聞きました!
「リライフプラスプレミアム No.01」掲載
illustration: koutaro numata
text: noriko sasaki
design: machiko hirata
桑田英隆弁護士
SNSで誹謗中傷の投稿を繰り返す住人に困ってます。これって名誉毀損では?
両親から受け継いだ一棟10部屋あるアパートの大家を、5年前からしています。
ある一部屋を貸しているBさんに対して、ほかの部屋の住人から「大音量で音楽をかけたり、友達を呼んで飲み会をして大声で話しているので、その音に困っている」と苦情が寄せられ、その事実も確認できました。
そこで、大家の私から騒音について話し合いをしようと思い「夜間の時間帯などは少し音に注意してほしい」とBさんにお願いしたところ、「私はうるさくしていません!」と逆切れ。
その後、BさんがSNSでアパート名を公表して「音を出してもいないのに、音を出したと文句をつけてきている。このアパートの大家は頭がおかしい」「大家は認知症が進んでこの周辺を徘徊している危ないやつだ」などといった誹謗中傷の投稿をしていることが判明。もちろん、私は認知症でもないし、徘徊もしていません…。
アパートの実名を出して、嘘の情報を拡散していることに怒り心頭です。これは名誉毀損にならないのでしょうか?このことについてBさんを追及したら、さらにひどいことを書かれそうで怖い気持ちもあります。この投稿をやめさせるにはどうしたらいいでしょうか?
(千葉県・Aさん・50代男性)
名誉毀損の重要なポイントは、「社会的評価を低下させる発言などがあった」ことと「その発言などが不特定多数に広められている」こと、この2つの要件があったかどうかということになります。ほかに第三者がいないところで本人に面と向かって言う悪口は、不特定多数に広められているとはなりませんが、多くの人が閲覧する可能性のある貼り紙や掲示板、雑誌や新聞などのメディアは、不特定多数にあたることが多々あります。
今回の場合、具体的なアパート名を公表し、かつ、その大家であるAさんに対して「頭がおかしい」「認知症」などという言葉を使って誹謗中傷しているので、Aさんの「社会的な評価を低下させる」といえます。そして、SNSで発信しているので、「不特定多数に広める」という要件も満たしています。ですので、AさんはBさんを名誉毀損に基づく損害賠償請求をすることができると思われます。
この場合、過去にBさんが投稿していた内容をすべて証拠として保存しておきましょう。また、SNSでの誹謗中傷を削除するには、「発信者本人に対する削除請求」や、「サイト管理者に対する削除請求」などがあります。
実際の事例の一部を修正しています。
【CASE1】理事会の場に居座り審議を妨害した迷惑住人。挙句の果てに名誉毀損で理事長を訴える!?
相談者はこのマンションの管理組合の理事長Cさん。理事ではないDさんが理事会に無理やり出席しようとしたため退席をお願いしたところ拒否して居座り続けたため、警察を呼ぶことに。それでも居座り続けた結果、審議が進められず理事会が不成立となってしまったそう。
その顛末を理事会の広報誌でDさんの名前を書いて配布したところ、Dさんが理事を相手にして名誉毀損で警察に告訴し、民事でも損害賠償を請求したことに対応した事案でした。ですが、刑事ではそもそも犯罪でないとして不起訴とされました。
民事も、Dさんの社会的評価を貶めていることは認めつつ、広報誌の内容は配布の対象となった区分所有者らの利害に関係する公共の利害に関する事実であるし、広報誌の配布は、配布対象者である区分所有者らの利益のために配布されていて、公益目的も認められるとして違法性は阻却。
結果として、損害賠償請求は棄却されました。
不起訴や棄却になったポイントは、理事会の広報の公共性。民事の判決では、今回の理事会の広報の内容に公共性があり、その目的が公益目的であり、かつ内容が真実であったので違法とはならないと判断されました。
【CASE2】工事業者とトラブルを起こしているような発言をされて我慢の限界…。訴えてやる!
マンションの修繕委員である住人のEさん。理事会の場で理事長から「Eさんが工事業者とトラブルを起こしている」と発言されたり、理事会の資料でも「Eさんは理事会を通さず無断で業者と連絡をしている」と記載されたことに対して、これは名誉毀損にあたるのでは?という相談でした。
過去に、理事会という少人数が集まる場であっても、理事会での発言がその場を通じて不特定多数に広がっていく可能性があると公然性を認められたこともあり、また工事業者とトラブルを起こしていると言わたのであれば、社会的評価が貶められたと認定される可能性もありました。
ただ、Eさんはそこまで大ごとにするつもりはないとのことだったので、一連の発言や記載に対して名誉毀損に該当しかねないとして、Eさんの代理人として今後そのような発言や書面を作成しないよう要請する通知書を送りました。
これを受けて理事会での対応も穏当となり、この一件は幕を閉じました。
相談者は裁判するつもりはなかったので、「注意喚起のために連絡したものであり、理事会に対して何かしらの請求を行う趣旨ではありません」と、通知書の受け取り側(理事会)にも配慮した書き方をしたことがひとつのポイントでした。
【裁判ではこんな判例も!】個々の役員ではなく管理組合による損害賠償請求を認めた判例
マンションの住人F氏が管理組合の役員らを誹謗中傷する文書を配布したり、防音・防水の工事を受注した業者に対して、業務を妨害するなどの行為を行ったため、管理組合がこれらの行為の差し止めを求めて提訴。
区分所有法57条で、区分所有者の共同の利益を害する場合はその差し止めを団体としてすることができる旨の規定があり、今回の場合は、団体的な利益=共同利益に違反する行為に当たるのかどうかというのが論点になった。
一審、二審では仮にこれらの行為を行っており、それによって本件マンションの関係者や管理組合取引先が迷惑を被っていることが事実であるとしても、被害を受けたとする者それぞれが差し止めをすれば足りると、共同利益背反行為には当たらないという判断がされた。
最高裁はこれらの行為が共同利益背反行為に該当する場合があるとしつつ、控訴審に差し戻した。結果、控訴審でも共同利益背反性を認め、管理組合による行為の差し止めを認めた。
管理組合業務の遂行や運営に支障が生じ、マンションの正常な管理または使用が阻害された場合には、共同利益背反行為に当たるとし、個々の役員が損害賠償や差し止めを求めるのではなく、管理組合が請求することを認めた判例。
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