マンションの「老朽化問題」今後どうなる?|マンション購入にまつわる素朴な疑問 最終回

リノベーション・ゼミナール

人生の三大出費のひとつが家の購入。だからこそ、後悔なく満足できる物件を選びたいものです。そこで、最終回では、マンションの老朽化について、現状と今後の問題点や観測について紹介します。

※こちらの内容は、2024年11月時点の情報です

「リライフプラス vol.52」掲載

illustration:tatsuki oshimoto

edit:noriko sasaki

教えてくれた人 井出 武さん

​学べるマンションメディア「マンション図書館」(https://mansionlibrary.jp/)の館長。1989年マンションの業界団体に入社。以後不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。現在、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員として、不動産マーケットの調査・研究、講演業務等を行う。

マンションの「老朽化問題」今後どうなる?

たびたびメディアで取り上げられるマンションの老朽化問題。購入したときは新しい新築のマンションであっても、時間の経過とともに徐々に老朽化は進んでいきます。もちろん、中古で購入した場合は、その築年数分、新築物件に比べて老朽化が進んでいるといえます。今住んでいるマンションは大丈夫かしら…と不安を感じている人も少なくないはず。

そこで、マンションの老朽化が引き起こす問題点や、老朽化の可能性があるマンションの特徴、マンションの老朽化問題に向けて協議されている法改正などについて詳しくご紹介します。

民間分譲マンション(団地も含む)の歴史

マンションの老朽化問題に触れる前に、そもそも日本にマンションがいつ頃から登場したのか、またその時代ごとのマンション(団地も含む)の特徴や、マンションを取り巻く法律や制度などの変遷を歴史的な出来事とともに年表にしてご紹介します。

1956年

初の民間分譲マンション「四谷コーポラス」が誕生

東京都新宿区に分譲された「四谷コーポラス」は5階建てで総戸数28戸、分譲価格は3LDKで230万円と当時としては破格の高額物件。また、当時は住宅ローンは戸建てのみでマンションには適用されていなかったので、日本信販(現三菱UFJニコス)が割賦で販売。2019年に建て替えられ「アトラス四谷本塩町」として生まれ変わった。

1962年

「建物の区分所有等に関する法律」制定

マンションの基本法ともいうべき「建物の区分所有等に関する法律」が制定されたことにより、マンションが不動産担保の対象となり、住宅ローンを利用した購入が可能に。

1964年

東京オリンピック開催

オリンピックが景気刺激となり、マンション開発がスピードアップ。大量供給時代に入る。この時代の代表的なマンションは、東京の原宿駅前に建てられた「コープオリンピア」。日本の億ション第1号で、分譲価格は3000万円から1億円だった。

1968年

マンションの大衆化が始まる

郊外エリアを中心に分譲価格を抑えたマンションの建設・販売が増え始めた。

1970年

「住宅金融公庫」の融資制度がスタート

住宅金融公庫とは、住宅金融業務を実施することを目的に設立された特殊法人。業務の中心は、個人住宅向けの資金融資、賃貸住宅建設のための融資、住宅融資保険など。これにより、多くのマンションが住宅ローンの適用を受けられるようになり、供給ブームに。住宅金融公庫は2007年に廃止され、住宅金融支援機構に引き継がれた。

タワーマンションの誕生

1970年の建築基準法の改正により、それまで31mに規制されていた高さ制限が解除され、タワーマンションの建設ラッシュが始まった。日本初のタワーマンションは、埼玉県与野市に住友不動産が1976 年に建設した、高さ66m、22 階建ての「与野ハウス」。

1981年

「新耐震基準」施行

1950年に建築基準法が施行された際に制定された耐震基準は、1978 年に発生した宮城県沖地震(M7.4)の家屋倒壊が甚大だったことから、1981年の建築基準法の見直しで、耐震基準が大幅に厳しくなった。1981年6月より前の基準が「旧耐震基準」、それ以降の基準が「新耐震基準」と呼ばれるように。

1982年

「マンション標準管理規約」の公表

マンションの共用部分の範囲、使用方法、理事会の権限や義務など管理組合運営に必要なことが決められた「マンション標準管理規約」。当初は中高層共同住宅標準管理規約という名称で建設省(現国土交通省)から公表され、2004 年に現在の「マンション標準管理規約」に改名された。

1991年

バブル崩壊

バブル崩壊により、都心に近いエリアの分譲価格が安くなったことで都心回帰の流れに。マンションの大規模化、高層化、高機能化、高サービス化などが進んだ。

2013年

新築・中古マンション価格の高騰

2013年から開始された、日銀による異次元金融緩和が大きな要因と考えられる。2024年現在でも、価格は上昇傾向に。

老朽化したマンションとは?

一般的に、築年数にかかわらず、建物や設備が経年劣化して住環境が悪くなってしまったマンションのこと。例えば、配管(下水管、上水菅)が劣化して階下への漏水が発生している、外壁にひびが入ってそこから雨漏りが発生している、などです。それらの不具合が修繕して改善するようなら問題ないですが、修繕することができず不具合を抱えているマンションが老朽化したマンションといえます。

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そもそもマンションの耐用年数は何年くらい?

自分の住んでいるマンションにあとどのくらい住むことができるのか、気になるところですよね。ここで注意が必要なのが、〈法定耐用年数〉と〈物理的耐用年数〉の違いについてです。〈法定耐用年数〉とは、税法上固定資産として減価償却ができる年数のこと。構造と用途によって耐用年数が決められており、鉄筋コンクリート造(RC造)・鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)のマンションは47年です。ただ、これは税法上の耐用年数であって、47年を過ぎたら住めなくなるということを意味しているわけではありません。

「新耐震基準で建てられたマンションの躯体部分は管理や修繕をしっかり行っていれば、100年くらいは持つと思います。また、基本的には新耐震基準前後できっぱり分けて考えることもできますが、旧耐震基準で建てられた1950年代のマンションは、高級仕様でとても頑丈に建てられているので一概にはいえない部分もあります」(井出武さん)。

つまり、物件によって、また管理・修繕がどのように行われているかで、実際の耐用年数は変わってくるということです。

老朽化したマンションで起こる問題とは?

① 管理費&修繕積立金が高くなる

適切な管理や修繕が行われていないと、マンションの老朽化は進みます。管理費や修繕積立金が十分に積み立てられていれば大きな問題はありませんが、そうではなかった場合、慌てて修繕積立金や管理費の見直しを行う必然性に迫られる可能性が大。大幅な管理費、修繕積立金の値上げが行われることが予想されます。

② 大規模修繕時に費用が足りなくなり一時金の支払いが発生する

時間的な余裕がなく切羽詰まった状況の場合は、毎月の管理費・修繕積立金の値上げでは間に合わず、一時金の支払が発生する可能性も。特に大がかりな大規模修繕に費用が足りず、何万円単位ではなく、何十万円単位の一時金が必要になるケースも考えられます。

③ 区分所有者の高齢化

マンションの老朽化で問題になっているポイントは2つ。建物自体の老朽化、そして区分所有者の高齢化です。国土交通省の調べによると、築年数が経っている物件ほど高齢者の区分所有者が増えているという状況に。区分所有者の高齢化が進むと、住むことに支障が出ない限りは大きな修繕を必要と考えず、管理費や修繕積立金を支払うことにネガティブになる=老朽化に歯止めがかからなくなる、という悪循環になる可能性も。

出典:平成30年度マンション総合調査

(国土交通省「マンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ参考資料集」令和5年8月10日)

④ 空き室がある

マンションが老朽化すると、売るに売れない、貸すに貸せないという悪循環に陥るケースも。そうなると、もともと住んでいた区分所有者が退去したあとは空き室となり、そのまま放置されてしまう傾向に。空き室が増えると、マンション全体に活気がなくなり、さらに人が住まなくなるという負のスパイラルに陥る可能性もあります。

出典:平成30年度住宅・土地統計調査(国土交通省「マンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ参考資料集」令和5年8月10日)

老朽化する可能性があるマンションを購入しないための3つのチェックポイント

① 修繕計画がしっかりしているか

マンションでは管理組合によって、5年、10年、15年、20年などといった長期間にわたる将来の修繕計画を立てて大規模修繕を行っています。その計画がしっかり立てられているか、またその計画どおり、これまで大規模修繕がきちんと行われてきたか、次の大規模修繕はいつを予定しているのか、を確認しましょう。不動産会社に頼めば、長期修繕計画を見せてもらえます。

② 計画に基づいた残高があるか

大規模修繕を行うには多額のお金が必要になります。そのため、一度の大規模修繕でそれまで積み上げてきた修繕積立金を使い果たしてしまうと、次の大規模修繕時に残高が足りなくて実施できない…という場合も。長期修繕計画を確認するとき、同時にいくら修繕積立金が貯まっているのかも確認するのがベター。

③ 借入金がないかどうか

長期修繕計画に基づいて、適正に修繕積立金を積み立てられていない場合、計画どおりに大規模修繕を進められず、金融機関から不足分の費用を借り入れなければならないケースも。その場合、借入金を返済するために、月々の修繕積立金が値上げされることが想定されます。借入金の有無もきちんとチェックしておきましょう。

マンションの老朽化問題に向けて法改正が!

国土交通省によると、2022年末で、築40年以上の高経年マンションは約125.7万戸、10年後には約2.1倍の約260.8万戸、20年後には約3.5倍の約445.0万戸に急増することが予想されています。そこで、増え続ける高経年マンションを巡る課題を把握し、マンションの管理や修繕、再生に向けた施策を検討するための「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」が設置され、施策の具体化に向けた検討が進められています。

また、老朽化マンション対策として、「建物の区分所有等に関する法律」(以下、区分所有法)の見直しに向けた検討が行われているので、その法改正ポイントをご紹介します。

※( )括弧内は築40年以上となるマンションの築年を示す。

※建築着工統計等を基に推計した分譲マンションストック戸数及び国土交通省が把握している除却戸数を基に推計。

出典:国土交通省「マンション政策のあり方に関する検討会とりまとめ参考資料集」令和5年8月10日

法改正ポイント①

区分所有建物の管理の円滑化

建物自体の老朽化、そして区分所有者の高齢化が同時進行で進んでいる中、管理組合の役員の担い手不足や総会の運営・決議が困難になっているマンションが増えています。また、死亡や相続で連絡がつかない所在不明の区分所有者も少なくありません。さらに、所在不明でない場合でも、所有者が外国人であったり、海外に居住するなどの理由で決議に出席できないケースも。

所在不明者や総会に出席せず賛否を明らかにしない区分所有者は、決議に対して反対者として扱われるため、円滑な決議を阻害する要因になっていました。そこで、区分所有者ではなく「出席者」の多数決による決議を可能とする仕組みが検討されています。

法改正ポイント②

区分所有建物の再生の円滑化

マンションを建て替える際には、管理組合の総会で建て替え決議を行う必要がありますが、現法では区分所有者の5分の4以上という多数決要件を満たす必要があり、容易ではありません。そのため、必要な建て替えが迅速に行えないという課題がありました。そこで、多数決割合を単純に引き下げる案のほか、耐震性不足など一定の客観的要件を満たした場合には多数決割合を引き下げる案などについて検討が進められています。


「マンション購入にまつわる素朴な疑問」その他の記事

■「マイソク」って何?|VOL.1
■「諸費用」って何?|VOL.2
■定期借地権付きマンションって何?|VOL.3
■低層、タワマン、大規模、団地。マンションの種類によるメリット&デメリットは?|VOL.4
■管理組合と管理会社。何がどう違うの?|VOL.5
■マンションの「老朽化問題」今後どうなる?|最終回
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